オットは10年ほど前、仕事の関係で故郷の福岡から上京してきた。
そして、最初に住んだ街が、本郷だった。
会社の社長に勧められて決めたらしいのだが、
「土地勘がまったくないから、最初はどういうところかぜんぜん分からなかった」
うん、それはそうだろう。
本郷からほど近い千駄木に再び越してくることになるなんて、きっとこの辺りに縁があるに違いない。
かくいう私も、数年前は町屋に住んでいた。
そんなオットから、「本郷にカレーを食べにいこう」と提案が。
私たち夫婦は、かなりのカレー好き。さっそくぶらぶらと散歩がてら出かけてきた。
本郷には数多くのカレー屋があるようだが、最初の1軒に選んだのは、レトロな雰囲気をもつ『万定』。
本郷通りから入ってすぐの右手にある。
「カレーライス」と書かれた古い看板と古い建物が目印。
明治末に建造されたものらしく、店は大正3年(1914)創業の老舗。
オットもこの店に入るのは初めてという。
カレー屋というより、カレーが評判の、大正モダンを思わせる喫茶店といったところ。
もとはフルーツパーラーだったようだが、果物屋を経営していた店のご主人の弟さんが亡くなったのをきっかけに、メニューから外されたらしい。
その名残りのメニューのフレッシュジュースが魅力的だ。オレンジ、グレープフルーツ、バナナなど、300円~400円で楽しめる。
コーヒーも300円と、学生向きの値段で感激した。
とりあえず今回は、2人ともカレーライスを注文。
店の人はかなり無愛想なおじさんで、具合でも悪いのかと思ったくらい。
店は混んでいなかったが、10分近く待たされてカレーが登場。
大きな白い皿に、煮込んだたまねぎと豚肉がいくつか乗った黒っぽいカレールーと、白いごはんのコントラストが印象的な一品。
まずは、オットが一口食べて、「ん?」
「おいしい?」と聞くと、
「初めて食べる味がする」
どれどれ。一口パクリ。
「…ん? 苦い」
炒めたたまねぎが焦げてしまったのか、隠し味にコーヒーでも使っているのか、カレー独特のスパイスの香りよりも、苦味のほうがやや勝っている、不思議な味だった。
豚肉がよく煮込まれていて、おいしい。福神漬けとともに、口なおし的な役割を果たしている。
最初は戸惑ったものの、食べているうちに、この独特の苦味が快感になってきた。
「これ、クセになるかも…」
個性的な味と店の雰囲気が、とてもマッチしていると感じてきた。
見た目よりボリュームがあり、おなかがいっぱいになった。腹持ちもよい。
これで750円は納得。100円プラスで大盛りが食べられる。
他にも、ハヤシライス(850円)、カレースパゲティ(800円)、ハヤシスパゲティ(900円)などがある。
トマト・ヤサイジュース(300円)も気になる。今度注文してみよう。
他の客が支払いをする際、「カシャーン!」という大きな音にビックリ。
レトロで大きなレジスターが、開いた音だった。
昭和9年製だというこのレジスターは、今も現役のようだ。
支払いをする時、店の人に
「あのカレーの苦味は、何からくるのですか?」
と質問したかった。
けど、最後までおっかない顔をしていたので、聞くことができなかった。
何回か通って、店の人が笑顔をくれるようになったら、聞いてみよう。
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『万定』
住 所 文京区本郷6丁目17-1
電 話 03-3812-2591
時 間 11:00~18:00
定休日 日曜、祝日
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